以下の掲載文は執筆者の坂本伸之さんの了承を得て引用しました。
ご理解に感謝申し上げます。
【掲示板を利用した協同学習の可能性】
インターネット上の掲示板を利用して、遠く離れた生徒同士が学習したことについて
意見を交換し合う、そんなユニークな協同学習の取り組みが進められている。
現在、千葉敬愛短大の非常勤講師を勤める永井正洋さんは2年前、千葉県袖ケ浦市立
長浦中学校の教諭時代に、掲示板を使った授業を試みた。長浦中学校と神戸大学付属
住吉中学校との間で実施された数学の授業には、両校とも1年生の3クラスが参加した。
授業の仕組みはシンプルだ。両校の各クラスの生徒たちは数学の時間になるとパソコン
ルームに移動する。そして習い終えた数学についてのさまざまな疑問をウエブ上の掲
示板に書き込む。書き込みは相手校からも閲覧できるわけだ。それを読んだ相手校の
中で、疑問に答えられる生徒が答えを書き込む。これを繰り返して討論するうちに、
いろいろな解決法が導き出されていくのである。
このときのテーマは「正の数・負の数」。疑問には「なぜ、マイナスの数字どうしを
かけるとプラスになるのか」「ある数にゼロをかけるとゼロになるのはなぜ?」「数字
をゼロで割ることができない理由は」といったものが多かった。教えられた知識や技能
だけでも計算の結果は得られる。しかし、深く考えると「なぜだろう」と思える疑問で
ある。つまり、この授業のねらいは、より深い数学的な考え方に少しでも近づくところ
にあるのだ。
数学関係の学会などを通じて掲示板を使った授業の普及に力を入れる永井さんは、次の
ように説明する。
「討論したり、教えたりするなかで自分の考えを外化(言語化)すると考えが深まりま
す。その言語化には時間もかかるし、容易にいかないので非リアルタイムがいい。1人
の数学教師といつも決まった顔ぶれの級友で進められる授業では、クラス全体に思考パ
ターンのような゛文化゛が形成されてしまうので、遠く離れた学校との交流がいいので
す」
生徒たちは意欲的に取り組み、コンピュータ画面上の掲示板を見ながらワイワイと楽し
そうだったという。
通算5回の授業の前と後で実施した生徒たちへのアンケート結果を比較したところ、協
同学習後では、「学習したことに疑問をもつようになった」「抱いた疑問について親や
先生だけでなく友達と話し合うことが増えた」などの回答が多く見られるようになった
そうだ。
数学は独りでじっくり考えながら理解を深めていくものと思われているが、こうした遠
隔交流授業の力を借りて理解を深める試みがもっとなされても良いのではないか。永井
さんに、ウエブを利用した協同学習をうまく運ぶためのポイントを挙げてもらった。
・各単元が終わったところで発展的学習の一つとして掲示板を使う。
・ウエブ上に掲示板を構築する作業は、少しコンピュータに詳しい先生に手伝ってもら
うとよい。
・ある程度キーボードを使いこなす学年を対象にする。
・交流する双方の学校の先生や生徒たちが似通った教え方や学習文化を経験していると、
意外な発言や異質な考え方に乏しく、討論が低調になる。異なる価値観を持つ相手や、
異年齢間の交流が必要とされる。
掲示板を使った協同学習は、パソコンや通信技術についての深い知識は求められない。
その反面、なぜあえて掲示板を使って授業を進めるのかという理由を、あらかじめ生徒
たちに理解してもらう必要はあるだろう。「記憶する数学」の蔓延にストップをかけ、
本来の「考える数学」を取り戻す意味でも、普及が期待される授業形態だと言える。
(坂本伸之)
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